Amazonが進化し続けるために、大切にしているのが「Leadership Principles(リーダーシップ・プリンシプル)」と「Day One(デイ・ワン)」という考えです。これらは、Amazonの共通言語であり、また企業文化としてAmazonの基盤を形作ってきました。世界に約100万人いる社員たちは常に意識し、行動の指針にしています。このブログでもたびたび登場するこれら2つの基盤について、アマゾンジャパンでチームを率いているディレクターたちに、それぞれの立場から語ってもらいました。進行役は、パブリック・リレーションズ本部ディレクターの金子みどりさんです。
 

金子みどりさん:まずはお仕事の内容を教えていただけますか。

鈴木浩司さん:プライム・マーケティング事業統括本部のディレクターを務めており、入社6年目に入るところです。日本のお客様にどのようなニーズがあるのかを理解して、それに対してAmazonの様々なサービスがどのようにお客様の生活を便利にできるのかをお伝えしながら、さらに活用していただくための情報を伝えていくのが仕事です。Amazonはグローバルな企業ではありますが、日本のお客様のために今何をすべきかをもっともっと理解しなければと日々努力しています。

逢阪志麻さん:オーディオブックサービスのAudible(オーディブル)部門に所属して、5年ほどになります。Audibleは、プロのナレーターや俳優さんたちが小説や児童書、ビジネス書などの書籍を朗読したものを、Audibleアプリで聴くことができるサービスです。最近は、オリジナルの作品も発表し始めたので、ぜひ聴いていただければと思います。

Day One Culture
逢阪志麻さん。Audible部門ビジネス・アドバイザー。入社6年目。採用時は、Audibleの弁護士として企業法務を担当。その後、Audibleのカントリー・マネージャーを経て、2020年から現職。

石橋憲人さん:僕はAmazonに入社して11年目です。ずっとAmazonでの販売にかかわる事業を担当しています。最初はAmazonで商品の品揃えを拡充し、価格交渉を行うベンダーマネージャーを経験しました。その後、事業者様にAmazonで販売していただくAmazonマーケットプレイスを担当し、今は企業とお取引を行うAmazonビジネスをけん引する役目をしています。設立から3年で急成長している部門ですが、まだまだ頑張らないといけないと思っています。

鳴坂育子さん:私は2004年入社なので、16年間、Amazonに在籍しています。一貫してサプライチェーンのオペレーション部門で働いてきました。最近まで手がけていたのは、Amazonのリテール部門とAmazonで販売されている事業者様の配送をサポートするフルフィルメント by Amazon(FBA)両方のフルフィルメントネットワークの長期事業計画です。具体的には、将来的なビジネスの成長に合わせ、Amazonの物流拠点フルフィルメントセンター(FC)を、いつ、どこに、どれくらいの規模のものを建てる必要があるのかなどを計画してきました。他に輸送コストの削減やお客様に商品が届くまでのスピードの短縮など、プログラムマネージメントにも取り組んでいます。

 
Amazonでのキャリアデザイン
金子さん:Amazonの特長のひとつは、職歴や役職に関係なく、新卒でも社員全員がリーダーであり、一人一人のオーナーシップに基づいてキャリアデザインできることだと思います。逢阪さんは、その好例ですよね。

逢阪さん:ええ。実は私は、企業法務の弁護士としてAmazonに入社しました。米国の弁護士事務所で15年ほど、キャリアを積んでからの転職でした。日本でAudible事業が立ち上がることなり、「日本でほとんど知られていないサービスの立ち上げに、スタートから関わるのも面白い」というのがきっかけでした。リーガル(法務)担当者として、Amazonでオーストラリアと日本を中心に2年ほど担当したのですが、「Amazonにいるのなら、ビジネスのほうも見てみたい」と思うようになりました。そして、リーガルからビジネス側へ、勇気を出して飛び込んでみました。

金子さん:法律の専門家が、新規事業の責任者になるというのは、普通に考えるとかなりの冒険です。

逢阪さん:びっくりされる方もいるでしょうね。でも、Amazonでは意外なことではないんです。「君ならできる」と後押ししてくださる方たちがいました。私も挑戦したい気持ちはあるものの、本当にできるのか不安があったところを、上司や同僚からぐいっと背中を押してもらった感じです。

金子さん:Amazonにはユニークな経歴をもった社員が多いのも特長です。一旦仕事を辞めて数年サーファーをしていたり、10年以上専業主婦を経たりなど多様です。鈴木さんは以前、動物学者だったそうですね。

鈴木さん:はい。私は米国でツルの渡り鳥の行動学を研究していました。アマゾンジャパンがサービスをスタートさせた2000年頃、知人に「Amazonなら、専門書をネット経由で購入できるよ」と教えられ、試しに買ってみたら、翌日、メールで「この本を買っている人は、こういう本も買っています」と薦められ、驚きました。今でこそ当たり前の機能ですが、当時はそんなサービスを提供する企業はどこにもありませんでした。面白いことに、興味を持ちそうな商品を推薦するために使われるメソッドは、動物の行動学の考え方と似た部分があるんです。あのとき、Amazonからのメールに動物行動学者として衝撃を受けたことが、時間を経て、今のキャリアにつながりました。

金子さん:鳴坂さんも今年から新しい挑戦を始められるとお聞きしました。

鳴坂さん:2021年2月から、カスタマーサービス部門のディレクターに異動します。長年、働いてきたオペレーション部門と親戚のような関係の部門ですが、「次に何をすれば違う側面からお客様に、そして社員としてAmazonに貢献できるか」と考えての決断でした。

経験を生かしつつ、新たな部門でAmazonに関わることで、お客様のお買い物体験の上流から下流まで知ることができます。経験が増えることで、一層お客様を起点にして考えられるようになり、お客様のお買い物体験の改善に貢献できるのではないかとワクワクしています。

Day One Culture
鳴坂育子さん。Operations部門ディレクター。入社16年目。サプライチェーン部門のオペレーションを長年、担当。2021年2月から、カスタマーサービス部門に異動。

 

Day Oneという文化
金子さん:Amazonには、「毎日がはじまりの日」と考え、チャレンジ精神を持ち続けるDay Oneの文化が各国のAmazonで浸透しています。なぜDay OneがAmazonにとって大切なのかを話してもらえますか。

鈴木さん:僕はイノベーションを続けることの重要性がDay Oneに現れていると思っています。常に挑戦していかないと、活力を失い、成長が止まってしまう。それを避けるには、素早く決断する、社内の風通しをよくするなど、課題をクリアにしていく必要があります。そうした挑戦する精神のコアになるのがDay Oneなのです。

鳴坂さん:Day Oneには、成長を継続させていくという意味もあると思います。たとえば、新システムを導入したときのみ、それに合わせてプロセスを刷新して運用することにフォーカスしがちです。でも、それでは導入時がベストになる。そうではなく、継続的に改善点を探し、進化の努力を怠らないことが大事なのだと思います。

金子さん:2020年3月から本格導入した「置き配」も進化の1つですね。配達員の再配達などの負担や環境負荷の軽減など、社会的な課題を解決するためのイノベーションとして2019年に発表しました。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で、お客様や配達員の皆さんの安全を守る非接触の配達方法としての役割も加わりました。

石橋さん:状況に合わせて柔軟に対応できたのも、Day Oneの精神で先々を考え、スピーディに課題を解決し、現場に落とし込んでいたからです。新しいプロジェクトの方向性が明確になり、実行するまでにはある程度の時間が必要ですから。

ほかにも、新型コロナウイルス対策として、Amazonビジネスは医療従事者向けの専用サイトを立ち上げました。別の業界を想定して始めようとしていた機能だったのですが、流用できることに気づき、N95マスクや手袋など、医療現場での必需品を病院や診療所だけが購入できる形で提供したのです。販売先を明確にすることで、納入してくださる企業から信頼され、交渉がまとまったこともありました。

Day One Culture
石橋憲人さん。Amazonビジネス事業本部ディレクター。入社11年目。アマゾンジャパンが取り扱う商品のベンダーマネージャー、Amazonマーケットプレイスを経て、2年半前から現職。


Amazonの社員をつなぐリーダーシッププリンシプル
金子さん:Amazonは、データ重視のロジカルな考え方を徹底する企業と思われているところもあり、それはそれで事実なのですが、同時にこれほど愚直に議論を重ねる組織は珍しいのではないかと思うくらいです。その議論の共通認識となっているのが、Day Oneという共通言語であり、リーダーシップ・プリンシプル(以下LP)という行動の指針になる信条です。どの国の社員とも掘り下げた議論が可能なのはこれら共通の基盤があるからだと思います。14項目あるうち、皆さんが大切にしている「LP」はどれでしょうか。

鈴木さん:ひとつは、LPの最初に掲げられているCustomer Obsessionです。リーダーはお客様を起点に考え行動するという信条です。僕が入社した頃のAmazonは、米国でスタートしたサービスを日本に持ってくることに比重が置かれていました。でも、「日本のお客様にとって本当に良いサービスになっているのか」と疑問を感じることもあったのです。

そこで、ジャスパー・チャン社長と「もっと日本のお客様にフォーカスしよう」と話し合いました。そこから組織を変えていったのですが、お客様のニーズが把握できていないと、米国の本社にも日本が必要とするものを説明できません。そして、そのためにはデータやデータ分析の後ろ盾となるエビデンス(証拠)が必要になる。そのため、お客様の視点から考えることにこだわる組織をここ日本で作ってきました。まだまだ日本のお客様のニーズを深く理解する必要はありますが、今では多くのプロジェクトをCustomer Obsessionが支えていると実感しています。

もうひとつは、Are Right, A Lotです。リーダーは優れた判断力と経験に裏打ちされた直感で、正しい判断を行うという指針です。Amazonのお客様の期待値は常に進化していて、5年前と今ではまったく違います。常に変化するお客様のニーズを分析し、明確な答えを時間内に出すのはとても難しい。でも、どこかで判断しなければなりません。そこで、「失敗しても、とにかく前に進もう」という「Day One」の精神がとても重要になります。失敗を繰り返しながらも、着実に前に進むということからとても多くのことを学ばせてもらいました。

Day One Culture
鈴木浩司さん。プライム・マーケティング事業統括本部ディレクター。入社6年目。入社した2015年11月からコンシューマーマーケティングを統括。2020年11月から現職。

逢阪さん:私も周囲から「Amazonは数字ばかり見ているんでしょ?」と言われることがあるんですが、それだけを見ているというわけではないと思います。Audibleでは、オーディオブックが根付いていない日本で、お客様に何が響くかを素早くテストして、そこから学び修正していくことのくり返しです。チームで議論しながら、アイデアをブラッシュアップし、失敗を恐れずにチャレンジしていくことが大事です。

そうした経験を通して、私が大切にしているのは、Learn and Be Curiousです。リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けるという指針です。

これだけ世の中が変化するなかで、自分の専門外のことに手を出さないというのでは、時代に取り残されてしまいます。好奇心を持って学び、知識を広げようとするからこそ、新しい発想やサービスが生まれ、イノベーションを起こしていくことができる。Learn and Be Curiousは、LPの中で一番新しい指針ですが、とてもいい言葉だと思っています。

石橋さん:僕も2つあって、ひとつは「Are Right, A Lot」。これは鈴木さんと同じ意見なので説明は省きますが、もうひとつは、「Insist on the Highest Standards」です。リーダーは常に高い水準を追求することにこだわるということを指します。

たとえビジネスがうまく動いていても、それで満足せず、さらに上のレベルに達するにはどうしたらいいかを考え、実行しなければならない。そうでなければ、イノベーションは起こせない。自分たちで目標のバーを落とさないよう努力していこうという指針です。

鳴坂さん:私は「Deliver Results」も好きです。リーダーはビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速に実行するという指針です。この言葉はインプットがポイントだと思います。日々の仕事では、アウトプットに目がいきがちですが、実はAmazonではインプットにフォーカスして行動できたかどうかが、すごく重要とされています。アウトプットの評価となる売上やコストには、外部要因が影響することも多いからです。

鈴木さん:僕は「LP」が、Amazonにとっての大きな企業価値だと思っているのですが、指針をかみ砕いていくと、インプットするために必要な行動指針に行き着きます。イノベーションを起こすパワーになるのは、売上などのアウトプットのみにフォーカスすることではなく、いかにどのような仮説を立てながら具体的なアクションをしてお客様に満足してもらえているのかを理解するインプットにフォーカスするかなのです。

イノベーションを生み出すのは、人です。機械が勝手にやってくれるわけではありません。Amazonは、お客様はもちろん、社員を含めて「人」を大切にする会社です。これからも「人を大切にする企業」であるために、全世界の社員たちがDay Oneやリーダーシップ・プリンシプルに基づいた共通の企業文化を持ち、同じ方向を向いて進んでいくというのが必要なのだと思います。

Day One Culture
Amazonの社員食堂A2Zにて 2020年12月撮影

 
イノベーションを生み出すDay One という考え方
金子さん:これからもDay Oneの文化を育てていくために、どういう気持ちを持ち続けることが大切だと考えますか。

逢阪さん:Day Oneは、私たちが迷ったときに立ち返る場所です。その道筋を忘れないために、一人ひとりが日々、Day Oneの言葉を頭の片隅にでも置いておくことが大切だと思います。

鈴木さん:AmazonではWhyと聞かれることがとても多い。僕は入社して半年くらい、あまりにも君はなぜそう考えるの?と聞かれるので、崖から突き落とされたような気持ちになりました。いままでの経験では、WhyよりWhat(なに?)とHow(どのようにして?)の質問がほとんどで、それに回答すれば物事は進んでいたからです。

でも、イノベーションにつながるのは、「なぜ空は青いの?」と子どもが聞くような素朴な疑問だったりします。だからこそ、新しくAmazonに入ってくる人には、素朴な疑問を遠慮なくぶつけてほしい。僕たちも、質問しやすい環境を作っていくことが大事だと思っています。

石橋さん:僕は創業者のジェフ・ベゾスが表現するDay OneとDay Twoの違いを知ることが大事だと思っています。ジェフによるとDay Twoは、痛みを伴い死に向かう衰退を意味します。Day Oneとは天と地ほど違う世界です。エキサイティングな会社であり続けるために、Day Oneの世界にいるためにどうすればよいかと強く思うことがとても大事なのだ、と改めて感じています。

鳴坂さん:私はDay One文化の維持には、過去の成功体験にこだわらないことだと思っています。過去に失敗したことが、時間が経過したあとになって、成功につながることもあるからです。その意味で、ダイバーシティ(多様性)にもつながる部分ですが、固定観念にとらわれず、新しい才能も喜んで歓迎することが、Day Oneであり続ける秘訣なのではないでしょうか。