日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第6回は、ヒット商品を生み出す中小企業のビジネス戦略にフォーカスします。

※本記事は、2021年7月5日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

消費者のニーズは年を追うごとに多様化・複雑化しています。スマートフォンやSNS、サブスクリプションの普及によって消費行動そのものが変化するなど、その要因はさまざま。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じた人々の価値観やライフスタイルの変化も多様化・複雑化に拍車をかけています。そうした時代にヒット商品を生み出すことは並大抵のことではありません。

Amazon.co.jpに出品する日本の中小規模の販売事業者のデータを基にした調査結果「2020年 中小企業インパクトレポート」によると、Amazonにおける中小規模の販売事業者の商品販売総数は4億点を突破。数多くのヒット商品がAmazonで販売されています。今回は、他社にはないアイデアや商品力によってEC市場で成功を収める2社の事例から、ヒット商品を生み出す方法を探りました。

EC市場の分析が、ヒット商品を生み出す契機に

東京都中野区にある株式会社Fereple(フィリプル)は、オリジナルブランド「RATOM(ラトム)」を立ち上げ、AmazonなどのECサイトで販売を行っています。「私たちはあるカテゴリーや商材に特化せず、特別なブランディングもしていません」と語るのは、取締役の宮澤弘樹さん。ヒット商品にはブランディングが欠かせないという常識を覆す発想はどこから生まれたのでしょうか。

宮澤さん「世の中には数え切れないほどの商品があふれていますが、デザインは優れているけど高価だったり、安いけど機能面で物足りなかったり、品質と費用の折り合いがつかないケースが多々あると思います。であれば、お客様が本当に求めているものを追求して、無駄な部分は削ぎ落としてコストを抑えられないか。そうした考えがRATOMのスタート地点であり、コンセプトでもあります。ちなみに、RATOMはエジプトの神話に出てくる創造の神アトムと太陽神ラーを組み合わせた造語。ニーズに合わせた製品を常に創造するという意味を込めました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
株式会社Fereple 取締役・宮澤弘樹さん

そんなRATOMの商品開発の過程は実にユニークです。まず、AmazonなどのECサイトで売れ筋商品やニッチな人気商品を何千個、何万個とリサーチ。さらには、膨大な数のカスタマーレビューを読み込み、時には商品を購入し、どこが高く評価されているか、どこを改善すべきかを分析していきます。そうすることで、お客様にとって本当に必要な部分と改善すべき部分をあぶり出し、リーズナブルで満足のいく商品を制作していくのです。ファッションアイテム、家電用品、日用品などの幅広いラインナップの中で、一番の売れ筋はビジネス向けのトートバッグ。累計約3万個売れたこのヒット商品も、徹底したマーケティング視点から生まれたといいます。

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
レザートートバッグ(左)とハンドバッグ(右)

宮澤さん「Amazonで『トートバッグ』と検索したところ、キャンバス生地のトートバッグが上位に表示されていました。一方、街を見渡すとレザー生地のトートバッグを持っているビジネスパーソンが多い。今度は『トートバッグ レザー』で検索してみると、ビジネスユースに適さない高級ブランド品が出てきました。検索順位からは顕在化しないニーズがあると予測し、リサーチを重ねて生み出したのがこのレザーバッグです。レザー素材は何千種類の中から選び、海外の工場に出向いて仕様をひとつひとつ説明して作ってもらいました」

毎日使えるようにシンプルなデザインと機能性を追い求め、目指したのは流行に左右されない定番。お客様が本当に求めているものを販売したいという想いから、100人ものお客様にアンケートをとり、完成までには約8ヵ月を要しました。

宮澤さん「理想は、リーズナブルで毎日使えて、5年後、10年後も飽きがこない究極の定番。そんなロングセラー、ベストセラーを作りたいと思っています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
メンズからレディースまで、ターゲットも幅広い

自分自身の体験が、商品開発のアイデアの源に

もう1社の神奈川県横浜市にある株式会社cowhappi(カウハピ)は、ヘルスケア商品や美容アイテムなどの販売を手がけています。商品開発のアイデアは、代表取締役である鈴木未奈美さんの体験が軸となっているといいます。

鈴木さん「新卒で通販事業を行うIT系企業に入社したのですが、睡眠時間は平均3~4時間。食事も不規則な生活を送っているうちに免疫力が落ち、体調を崩してしまって……。このままではいけないと退職し、経験を生かして美容クリームなどの通販事業を個人で始めました。自分が本当に良いと思ったものだけを、自分と似たような悩みを抱える女性に寄り添いながら届けていきたい。起業時からその想いを持ち続けていました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
株式会社cowhappi 代表取締役・鈴木未奈美さん

お買い物でハッピーをお届けするという意味を込めて名付けられたショップ名はcowhappi(カウハピ)。取り扱うのは、鈴木さん自身の悩みや経験から生まれたサプリメントや美容アイテムです。特に自社で企画開発した、プロバイオティクスと呼ばれる生きた乳酸菌12種類が配合されたサプリメント「マルチ乳酸菌Prime」は事業のターニングポイントとなりました。

鈴木さん「会社員時代に緊張やストレスでお腹の調子が乱れることがあり、メンタルと体調が密接であることを痛感していました。同じような悩みを持つ方に、コンディションを整えるためのサプリメントを提供したいと創業時から思っていたのです。そんなとき、ある原料メーカーの方にご紹介いただいたのが12種類の乳酸菌。それぞれの菌について研究論文を調べるうちに『これしかない!』と確信しました。1つのカプセルに複数の生の乳酸菌が配合されているので、忙しくても簡単に飲み続けられる。お客様にとって飲むと安心する『お守り』みたいな存在になれればと思っています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
マルチ乳酸菌Prime
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
美容クリーム(左)とマルチ乳酸菌Prime(右)

テレビでプロバイオティクスが取り上げられた翌日には、Amazonにおける売上が通常の約6倍に伸びたといいます。「他のECサイトでも販売している中で、売上が伸びたのはAmazonだけ。テレビを視聴していた方が、リアルタイムで検索して購入されたのだと思います」と鈴木さんは分析します。

鈴木さん「反響の大きさにはすごく驚きました。そして、お客様から感謝の言葉をいただいたときは、心から作って良かったなと感じました。これからも、健康やメンタルに悩みを抱える人が自分らしく生きて、やりたいことに挑戦できるコンディションづくりを支えていきたいです」

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商品ページでは12種の乳酸菌を詳細に解説している

ヒット商品を支えるAmazonの存在

徹底したマーケティングから定番を生み出すFerepleと、個人の体験から共感を呼ぶ商品を生み出すcowhappi。一見、対照的な両社ですが、少人数でビジネスを成功させている点は共通します。なぜ、小規模ながら全国的なヒット商品を生み出すことができたのでしょうか。その要因はAmazonのサービスにあります。

宮澤さん「現在、EC事業を担当しているのは私ともう1人。ヒット商品を生むためにはリサーチに膨大な時間を割かなければいけないので、注文処理やお客様対応に手が回らない状況でした。そこでフルフィルメント by Amazon(FBA)を利用したところ、注文処理や梱包、出荷、さらにはお客様対応までAmazonが代行してくれるので劇的に業務が効率化されました。事前にAmazonの倉庫に商品を預けておけば自動で受注・出荷される仕組みなので、私たちはもちろん、商品を受け取られるお客様にとってもメリットが大きいと思います。オフの時間も増え、プライベートで行った買い物が新しい商品のヒントになるなど、意外な好循環もあります」

Amazon担当者のサポートも大きなメリットだと宮澤さんは続けます。

宮澤さん「Amazonの担当者が市場を俯瞰的に見た上で、当社が軌道に乗っているかどうかを細かく分析してくれるので、事業の方向性を考える上で非常に参考になります。商品名に関する専門的なアドバイスもいただき、SEO対策の効果もありました」

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共同創業者である山下大希さんと宮澤さん

一方の鈴木さんは、「1人で起業した私にとって、Amazonはなくてはならない存在」だと言います。

鈴木さん「FBAのおかげで出荷作業の負担が軽減されますし、配送スピードの速さもお客様に喜ばれています。マルチ乳酸菌Primeのように、テレビで紹介されて突発的に売上が上がったとしても、FBAを利用していればAmazonが受注・出荷作業を代行してくれるので慌てる必要はありません。安心して商品開発に集中できています。また、Amazonの担当者と毎週打ち合わせをする中で、新しい機能やキャンペーンについて教えてもらえるのもありがたいですね。スポンサープロダクトやクーポンを利用したおかげで、Amazon内での露出が増えました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Amazon担当者とは毎週ミーティングを行っている

両社はFBAパートナーキャリアサービス・ヤマトオプションを利用している点でも共通します。これは、FBAパートナーキャリアサービスのうち「ヤマト運輸」を配送方法に選ぶと、自社からFBA倉庫までの配送料金が通常と比べ割安になるサービスです(2021年7月現在)。

宮澤さん「Amazonの担当者は、当社に合ったキャンペーンがあるとすぐに教えてくれるのですが、このサービスもその1つです。当社は大型のオリジナルスピーカーも販売しており、以前は送料を抑えるために大型商品は自分たちで発送していました。しかし、近年は配送料が上がって経営に大きな影響を及ぼしていたのです。そんな中、ヤマトオプションを使えば140サイズの箱でも1箱600円程度で配送できるので、コストメリットは非常に大きいと思います」

鈴木さん「配送会社によっては都道府県ごとに送料が違いますが、ヤマトオプションはエリアごとに送料が一律である点もメリットだと思います。できる限り高品質なものをお客様へお届けしたいので、商品製造コストと価格設定のバランスは悩みどころですが、ヤマトオプションのおかげで余分なコストを抑えることができるので、商品開発に投資すると共に、お求めいただきやすい価格でお客様にご提供できています」

Amazonのサービスを活用し、ヒット商品を生み出した両社。次なる一手はどんなものになるのでしょうか。

宮澤さん「お客様のニーズを汲み取り、コスパが良い商品を増やしていく方針はこれからも変わりません。その姿勢をベースに、新しい展開も考えています。コロナ禍によって多くの企業が大きな打撃を受ける中で、長年受け継がれてきた伝統工芸品や町工場も厳しい状況だと聞いています。マーケティング分析が強みの当社が、日本の伝統工芸品や地方の工場ともコラボすることで、お客様の新たなニーズを掘り当て、日本経済を盛り上げていければと思っています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
自信作のレディース向けトートバッグを持つ宮澤さん

鈴木さん「最近はSNSでお客様と交流することに注力しています。私自身が心や身体の悩みをさらけ出すことで、同じ悩みを持つ人に共感してもらい、ファンを作ることがブランド形成につながるからです。自分をさらけ出すことは勇気がいりますが、それくらいの覚悟がないと成功できないという自覚もあります。商品の情報だけではなく、健康に過ごすために役立つ情報を発信していきたいですね」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
マルチ乳酸菌Primeに込めた想いを語る鈴木さん

成果を上げても立ち止まらず、信念と覚悟を持って前に進む両社。次なるヒット商品が生まれる日は、きっとそう遠くはありません。

社会全体がDXに舵を切る中で、Amazonは日本の中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは?

~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために

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