「これからもプログラミングを続けて、視覚障害者ならではのアイデアを生かしながら、ゲームやシステム開発などに携わっていきたいと思います」

筑波技術大学保健科学部情報システム学科 4年 杉崎信清さん

Amazonは昨年、Amazonの音声サービスAmazon Alexa(アレクサ)に機能を加える「スキル」の開発力を競うコンテストAlexaスキルアワード2018を日本で初めて開催した。応募総数365の中から選ばれた24組のファイナリスト達は、9月に東京・目黒のアマゾンジャパン本社で行ったファイナルステージで発表を行い、スキルの開発力を競った。

Alexaスキル『ハノイの塔トレーニング』の開発者であり、筑波技術大学の学生・杉崎信清さんもファイナリストの1人としてそのステージに立ち、プレゼンテーションを行った。彼は生まれた時から目が見えないが、パソコン画面の文字情報を合成音声で読み上げるソフトウェアを使い、高校生の時からプログラミングを行っている。

Alexaスキルアワード2018ファイナルステージでプレゼンを行う杉崎信清さん
Alexaスキルアワード2018でプレゼンを行う杉崎信清さん
Alexaスキルアワード2018でプレゼンを行う杉崎信清さん
Alexaスキルアワード2018ファイナルステージでの杉崎信清さんと筑波技術大学 宮城愛美講師と鶴見昌代助教

周囲の状況を把握するのに聴覚は欠かせないため、耳をふさがずに音を聞ける骨伝導のヘッドホンを利用。コードの確認にはパソコンで読み上げられた音声を記憶し、修正が必要な箇所を見つけ修正していく。作業効率を高めるために、コードの読み上げ速度は2倍以上に設定されている。初めてその音を聞く人にとっては、聞き取るのは難しい速さだ。

集中力を要する作業だが、「1日中でもコードを書き続けられます。気が付いたら食事以外はずっとパソコンに向かっていたこともあります」と杉崎さんは笑う。実際、彼は『ハノイの塔トレーニング』をほぼ1日で書き上げた。

彼がスキル開発を始めたのは、昨年2月に大学の課外活動としてAmazonのスタッフによるAlexaスキル開発の勉強会が開催され、そこに参加したことがきっかけだった。

杉崎信清さん

「最初はスキルって何? スマートスピーカーって?という感じでした。以前にもゲームの開発をしたことはありましたが、声で指示を出すゲームの開発は初めてだったので、アイデアがなかなか浮かびませんでした。そのため、プログラミング題材としてよく知られているハノイの塔を音声だけで解くゲームにしてみようと考えました」

ハノイの塔とは、3本の柱に大きさが異なる輪を移動させるパズルゲームだが、実物を見ずに音声だけで正解を導き出すのは、想像力と記憶力と根気が必要になる。脳トレゲームとして、そして杉崎さんや視覚障害を持つ人たちが普段の生活の中でも行っている、音声だけで状況を把握することを追体験できるゲームとなった。

杉崎さんが開発したスキル
杉崎さんが開発したスキルの一部(Audio Labyrinthはチームでの共同開発)
Amazon Echoシリーズ
Alexaが搭載されたAmazonのスマートスピーカーEcho(エコー)シリーズ

独り言に相槌を打ってくれる『ラフラフトーク』や除夜の鐘を鳴らす『除夜の鐘百八回』などいくつかのスキルを開発した後、杉崎さんが初めてグループでの開発に取り組んだのが、『Audio Labyrinth -脱出ゲーム』だ。全盲の同級生1人と弱視の下級生2人とチームを組み、シナリオ作成と効果音収集、マップ作製、ユーザ発話設計、そしてプログラミングとそれぞれに役割を割り振り、初めての共同開発に臨んだ。

音を頼りに迷路から脱出するゲームにしようと決めたのは、音をうまく使うことによってAlexaスキルならではのゲームにすること、そして視覚障害者の世界観を知ってもらうことにこだわったからだ。

音声を記憶し、音だけで楽しむAlexaスキルのゲームを開発
『Audio Labyrinth -脱出ゲーム』を開発した筑波技術大学スマートスピーカーアプリ開発チームの4人

「グループで開発することで、それぞれの強みを生かして、自分だけでは作れないものができたと思います。4人のスキル開発の経験がまちまちだったので、今回プログラミングは自分で行いましたが、Alexaスキル開発は比較的簡単にできますし、ボタンの位置や背景の設定など、ビジュアルデザインの要素が不要です。視覚障害のある人たちにとってバリアとなるものがないので、スキル開発に携わりやすいと思います。スキルの開発自体は難しくはないので、やってみたらきっと楽しめるんじゃないでしょうか」

Audio Labyrinthの開発メンバーたちと、今年2月に開催されたAWS(アマゾン ウェブ サービス)のユーザーグループによるイベント「JAWS DAYS 2019」でプレゼンを行い、視覚障害を持つエンジニアの存在をアピールすることができた。

現在、大学4年生となり就職活動中の杉崎さん。RPGゲームの開発やコーディング、Webアプリケーションの開発テストなどの仕事に就きたいという。

音声を記憶し、音だけで楽しむAlexaスキルのゲームを開発
杉崎さんたちのAlexaスキル開発を支援している筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 鶴見昌代助教は「グループでの開発では杉崎君のリーダーシップとコミュニケーション能力が発揮された」と語る
音声を記憶し、音だけで楽しむAlexaスキルのゲームを開発

「Alexaスキルアワードに参加するまでは、大勢の人の前で発表する機会はなかったので、とても緊張しましたが、2度のプレゼンはこれまでにない良い経験になりました。スキルを公開したことで、初めて知らない方からもフィードバックをもらえましたし、多くの人に自分が開発したゲームを使ってもらえるのはとてもうれしいことです。これからもプログラミングを続けて、視覚障害者ならではのアイデアを生かしながら、ゲームやシステム開発などに携わっていきたいと思います」

Alexaスキルは、Amazon Echo(エコー)シリーズをはじめとしたAlexa搭載デバイスを通して利用することができます。詳しくはこちらをご覧ください。
杉崎さんが開発したAlexaスキルはこちら
筑波技術大学スマートスピーカーアプリ開発チームが開発したAudio Labyrinth -脱出ゲーム-はこちら
杉崎さんの開発の様子について詳しくはAlexa Blogsをご覧ください。
Alexa スキルアワード2018の結果について詳しくはこちらをご覧ください。