「子どもたちの視野を広げるために多様な体験を提供したい、そして企業や地域、行政と共に子どもたちのことを一緒に考えていけるプラットフォームの役割をしたいというのが私たちの考えです」
特定非営利活動法人キッズドア 理事長 渡辺由美子さん

東京で子育てをしていた渡辺由美子さんが、経済的に厳しい状況にある家庭の子どもたちへの学習支援を始めたきっかけは、本当に小さな気づきだった。

「息子が小学生の頃、同級生に母子家庭でお母さんが休日も働いているため、夏休みにも外出しないという子どもがいたので、それなら一緒に博物館にでも行こうと誘ったらとても喜んでくれたのです」と渡辺さんは当時を振り返る。

渡辺さんは、少しでもそうした子どもたちの役に立てるならと、キッズドアと名前を付けた任意団体を立ち上げ、子どもたちを博物館などに連れていく活動を始めた。しかし、実際に集まったのは、本来はサポートが必要のない家庭の子どもたちばかりで、本当にサポートを必要とする子どもたちの参加は少なかった。

「イベントに参加するために必要なわずかな交通費や昼食代を出す余裕さえない家庭があることに、私自身が気づいていなかったのです。生活保護を受けると、進学のための資金を貯金することもできないので、生活保護を受けずにダブルワーク、トリプルワークをして懸命に働きながら生活費を切り詰めてなんとかやりくりしている家庭も多いのです」

子どもたちを未来へ導く仕事
特定非営利活動法人キッズドア 理事長 渡辺由美子さん

渡辺さんは、経済的な困難を抱える家庭の子どもたちが、高学年になるにつれ、不登校になったり、成績が下がっていくのを目の当たりにして、日本にはそうした子どもたちを社会で支える仕組みがないことにも疑問を感じるようになった。

多くの子どもたちを継続的にサポートするためには、組織としての活動が必要だと考えた渡辺さんは、2009年にキッズドアをNPO法人化。企業や団体からの助成金や寄付を活動資金に充て、大学生ボランティアによる学習会を始めた。その活動が新聞で紹介されると、翌日から30件近くの問い合わせが寄せられたことに驚いたという。

「その多くは、高校受験を控えた子どもを持つ保護者からでした。塾や予備校にも通う余裕はない中、こんなに多くの方たちに必要とされているのだと気づき、高校受験対策の講座を始めました」

子どもたちを未来へ導く仕事
2019年4月からIT自習室が開設される予定の四谷にあるキッズドアのスペース(曜日によって異なる学習会が開催されている)

2011年の東日本大震災後からは、宮城県の学校や避難所などでも勉強会を開始。現在では、自主運営と自治体からの委託事業として運営する学習会を東京と宮城の60以上の拠点で運営し、小・中学生から大学受験を目指す子どもたち、さらには高卒認定試験を受ける25歳以下の若者まで2000人以上(登録者数)を支援している。

子どもたちを未来へ導く仕事
キッズドアに通う保護者へのアンケートでは「お金が足りなくて、食糧が買えないことがありましたか」という質問に「よくあった」「時々あった」「まれにあった」の合計が30%以上となった。キッズドアでは軽食を提供している居場所型学習会もある。

Amazonでは2017年12月からキッズドアへの支援として、キッズドアに通う子どもたちを対象にプログラミング教室をAmazonのオフィスで実施してきた。さらに2019年には、子どもたちがタブレットなどで自由にプログラミングを学べる常設のIT自習室を東京・四谷のキッズドアのスペースに設けるための資金面でのサポートとともに、Amazonの社員が子どもたちの学習をサポートするイベントなども企画していく予定だ。

「学校でプログラミングの授業が行われたり受験願書をインターネットでしか受け付けない大学もあるなど、IT化が一層加速しています。このままではパソコンやインターネットの回線がない家庭は取り残され、格差はますます広がってしまいます。これからを生きていく子どもたちにとって必要な力となる、ITに触れることのできるIT自習室の設置はとても大きなサポートになります」

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2019年4月開設予定のIT自習室を担当する梁瀬容僖さん。IT自習室は曜日を決めて開催する予定。

企業からのサポートを受けるメリットには、そうした環境整備だけでなく、子どもたちが社会とのつながりを持てることにも大きな価値があると渡辺さんは言う。

「子どもたちの世界のほとんどは学校と家庭だけです。仕事と聞いて思い描く職業は、限られた選択肢だけになってしまうのです。そんな子たちが、Amazonのオフィスに行って、社員の皆さんと交流することで、『こんな素敵な場所で働く仕事があるんだ』『こんなに楽しそうに働いている人たちがいるんだ』ということを実際に見て、交流することが子どもたちにとってとても大切なんです。そうした視野を広げるために多様な体験を子どもたちに提供したい、そしてキッズドアが企業や地域、行政と共に子どもたちのことを一緒に考えていけるプラットフォームの役割をしたいというのが私たちの考えです」

最近うれしかったことを尋ねると、「以前キッズドアで勉強をしていた高校生が大学生になり、今度はボランティアとしてキッズドアに戻ってきてくれたこと」と笑顔を輝かせた渡辺さん。キッズドア設立から10年以上が経ち、善意の循環が生まれつつある。

「子どもたちにとってお手本になる先輩が近くにいることで、相談もしやすいですし、自分たちも頑張れば大学に行けるのだと思えるようになると思います。子どもたちが視野を広げ、将来に夢を持つことが重要です。本人に望む夢があれば、それをサポートすることができますから」

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