「社員には、去年と同じ仕事をしないようにとよく言っています。昨年に比べて自分が成長しているか、新しいものに目を向けているか、つねに考えて欲しいのです」
株式会社西山酒造場 西山桃子さん

「結婚前の挨拶のために初めて丹波に訪れた時、それまで見たこともないような立派な角をつけた大きな鹿が道路に現れてびっくりしたんです。これからこんな大きな鹿がいる場所に住むのかって思いました」と笑うのは西山桃子さん。彼女が大阪府堺市から、兵庫県丹波市の西山酒造場に嫁いだのは、15年ほど前のこと。

西山酒造場は、日本三大杜氏と呼ばれる丹波杜氏のひとつで170年以上の歴史を持つ老舗。俳人・高浜虚子などの文化人とゆかりが深く、歴代の当主たちは豊かな自然の中で新たな文化を取り入れながら、酒造りの文化を育んできた。しきたりを重んじる日本酒業界の中でも、柔軟な姿勢で新たなことに挑戦し続けてきた酒蔵のひとつだ。

結婚前、桃子さんは銀行員から一念発起して看護学校を卒業し、看護師として働き始めていた。そのため「結婚しても、おかみさんになる気持ちはなかった」という。幸い、夫の周三さんとその父の裕三さんも、桃子さんの仕事を尊重し、結婚後も仕事を続けることに賛成してくれていた。

しかし、桃子さんが第一子を妊娠中に、長年勤めていた番頭が病に倒れたため、桃子さんが経理を手伝うことになると、次第に酒造りの魅力に引き込まれていった。同時に桃子さんの中で大きくなっていったのは、丹波や西山酒造場の魅力をお客様に伝えきれていないことへの歯がゆさだった。特に、国の登録有形文化財に指定されている歴史ある建物に家族が暮らし、一方で酒の販売はあまり特徴のない事務所で行われていることを残念に思っていた。

西山酒造場西山桃子さん
西山桃子さん

「丹波までお越しいただくお客様に、歴史ある建物をお見せすることで、私たちのものづくりへの思いを知っていただけたらどんなに良いかと思っていました。でも昔からそこに住んでいる家族にとっては、文化財であっても単なる生活の場でしかなく、お客様に喜んでいただけるとは思っていなかったんです。もっと蔵の魅力を伝えたいとあれこれ考えるうちに、やりたいことがいっぱいになってしまって、結局そのまま女将になりました」

大きな転機となったのは、2014年8月の豪雨による土砂災害だった。近くの山が崩れ、流れ出た大量の土砂が押し寄せた。

「自宅にも、店舗にも、倉庫にも木や泥が膝くらいまでたまり、一時は『ああ、これで終わってしまった』と思ったほどでした。でもそのうち、170年続いた歴史を途絶えさせてはいけないという、使命感がわいてきたんです」

幸い、酒造りに欠かせない井戸は無事だったこともあり、大勢のボランティアの協力も得て、桃子さんたちは一丸となって復旧に動き始めた。

「すべてを片付けて、お酒さえ造れるようになればなんとかなると信じていたんですが、現実はそんなに甘いものではありませんでした」

販売店や飲食店などに、商品を納品できなかった状況から、ようやく酒造りを再開し、出荷体制が整っても、売り上げは元に戻らなかった。飲食店では季節ごとのメニュー替えの際に商品リストから除外され、販売店では商品の陳列場所を他社製品に奪われてしまったりしたためだ。

現在の西山酒造場の店舗
現在の店舗。西山酒造場の主屋を含む建築群3点は、国の登録有形文化財に登録されている

「うちのお酒の良さを知っていただき、覚えていただくことの重要性を実感しました」

そのため、それまでなかった営業部をつくり、販路開拓に努めたほか、インターネット販売を含む直販に一層力をいれた。2016年からはAmazonで販売を開始し、全国のより幅広い世代のお客様に商品を知っていただく機会をつくった。

そして、ブランドイメージを印象付けるために、家屋を店舗に改装し、桃子さんが希望していたお客様をお迎えする空間に作り替えた。

もう一つ、被災後に始めた取り組みが、酒米造りだ。地元の農家は高齢化が進んでいたため、田圃が土砂に埋もれたまま手つかずの状態になっているところが多かった。それを見かねた社員たちから声が上がった。

今年も、酒造りにも使用している「但馬強力」と甘酒ヨーグルトの原料にもなっている「兵庫北錦」の作付けを行った。その量はまだ少ないが、地元の品種を育成する取り組みとして今後も続けていく方針だ。

「うちの社員の多くは40歳代以下で、日本酒を造りたい、伝統を守りたいという熱い思いを持って県外からやってきた人たちです。口に出したことはありませんが、酒造りという同じ目標をもった家族のような存在になっています」

西山酒造場では、空調設備を導入し一年中酒造りができる環境を整え、先代の裕三さん、社長の周三さんの意向で、リキュールや梅酒、甘酒ヨーグルト、化粧品など、日本酒以外の商品開発にも力を注いでいる。販路を拡大し、日本酒以外の製品を作ることで、通年での仕事を生み出し、蔵人を社員化している。

「最近ではアメリカや台湾からも人材を採用しています。まずは全員が酒造りの工程を学ぶことから始め、ものづくりを理解してもらったうえで、本人の希望と適性を見極めて様々な業務を割り振っています」

新商品のアイデアを社員が自由に提案できるようにしていることも、西山酒造場の特徴の一つだ。誰もが商品開発に携われるチャンスをつくることで、社員の製品に対する意識を高め、風通しの良い環境を生み出し、新たなアイデアを生んでいる。昨年も3つの新商品の開発に成功するなど、人材教育に力を注ぐことが西山酒造場の強みにもなっている。

「社員には、去年と同じ仕事をしないようにとよく言っています。昨年に比べて自分が成長しているか、新しいものに目を向けているか、つねに考えて欲しいのです。酒造りでも新しいものを追い求めないとおいしいものは作れません。ただ同じことを繰り返しているだけでは、伝統は守れないというのが私の実感です」

新たな挑戦を続けて伝統を受け継ぐ
天鼓蔵の前で従業員たちと

西山酒造場では、商品ラベルやパッケージなどのデザインにもこだわり、商品の魅力を高めている。そしてAmazonでは、日本酒だけではなく、デザイン性の高い瓶入りの梅酒や、リキュールなどの商品もよく売れるという。

「Amazonを通して、全国のお客様に私たちの商品を知っていただけるのがとてもうれしいです。フルフィルメント by Amazon(FBA)を利用することで、商品を納品しておけば、販売から発送まで、さらにはお客様対応もAmazonにお任せできるので、土日や連休に社員を休ませることができ、売り上げも伸ばすことができています。カスタマーレビューで、今まで聞くことができなかったお客様の声を聞くことができるのも、Amazonの良さだと思います」

3児の母として、酒蔵の女将として忙しい毎日を送る桃子さん。それでも仕事をする毎日が楽しいという。

「おいしくて幸せな気持ちになったとか、お酒と合わせることでお料理がよりおいしくなったとか、お客様の喜びの声を聞けるのがうれしいですね。お酒は生命を維持するためには必要ないものですが、祝いの席や、別れの席などで大切な役割を果たすものです。日本酒の魅力をもっと多くの方に知っていただき、お客様の人生に花を添えることができればと思います」

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西山酒造場の酒造りの様子をご紹介しているAmazon「にっぽんをつなぐ」のビデオも併せてご覧ください。

Amazon「にっぽんをつなぐ」